前立腺癌は欧米に多く、日本では比較的少ない疾患でしたが、ここ十年、日本においても早期前立腺がんが急増しています。その原因として食生活を中心とした生活環境の欧米化が挙げられますが、実際は前立腺特異抗原(PSA)の採血検査と超音波を利用した前立腺組織検査(超音波ガイド下前立腺生検)の普及が大きな原因であります。
1. PSAが高く前立腺癌が疑われるといわれた方
PSAは前立腺の上皮細胞から分泌される蛋白分解酵素で、精液の中に多量に含まれており、精液が放出されたときに固まるのを防ぐ作用を持っています。極一部が血液中に漏出し血液検査で測定する事ができます。血液中のPSA漏出量の増加(PSA値が高くなるとき)は、癌があるとき、前立腺が大きいとき(前立腺肥大症)、前立腺に炎症が起こっているとき(前立腺炎)などに生じます。また正常の前立腺でも、自転車に長時間乗ったあとや射精後、前立腺の検査や膀胱の内視鏡検査後などでも上昇します。したがってPSA値が高いから必ず癌があるわけではなく、また正常値以下でも癌がないわけではありません。値が高ければ癌の可能性が高く、低ければその可能性は低いと考えるべきです。欧米ではPSA値が2~4と低い値でも10%以上の人に癌が見つかったという報告があります。一般的にはPSA値が4~10の場合、癌が見つかる確率は20%程度、10~20では約50%、20以上では約80%に癌が発見されます。
2. 前立腺癌の治療を受けられている患者さんのPSA
PSAは前立腺癌の治療を受けられている患者さんにとっては、その治療がうまく奏功しているかどうかの最も信頼できるマーカーです。
手術を受けられた患者さんのPSAは測定できないほど低下します。手術後測定できないほど低下したPSAが徐々に上昇し0.1を超えるような場合は再発が疑われます。
放射線治療を受けられ、現在ホルモン療法をされていない患者さんのPSAは、正常の前立腺が残っているため、ある程度高い値になります。ひとつの目安になるのが1~1.5です。この値を超えて上昇を続ける場合は放射線により癌が根治できず残存している可能性があります。
ホルモン療法を受けられている患者さんのPSAは低ければ低いほどよく効いていることになります。一旦低下したPSAがホルモン療法を続けていても上昇する場合は、ホルモン療法抵抗性になってきていることを意味します。
3 検診などでPSAが高いといわれた場合
まず泌尿器科に受診し、前立腺が大きくないか、あるいは炎症が起こっていないか調べてもらいます。PSA値を前立腺の大きさで割った値が0.1~0.15以下なら前立腺癌の可能性は低くなります。またPSAでも、もう少し詳しい検査(フリーPSAの測定)をし、フリーPSAとPSAの比が0.15~0.2以上であれば前立腺癌の可能性は低いということになります。ただし、PSA値が4以下でもPSA値を前立腺の大きさで割った値が0.15以上ある場合、PSAを測定するたびに上昇している場合は、前立腺癌の可能性がありますので要注意です。
以上のような検査をし、前立腺癌の可能性がある程度高ければ前立腺の組織検査を受ける必要があります。組織検査をしないと前立腺癌があるかどうかはわかりません。前立腺癌の進行は非常にゆっくりしているため仮に癌であったとしても時間的余裕は十分にあります。したがって前立腺癌の可能性の高低と年齢や合併症に応じて経過を見るのはひとつの方法です。特に75歳以上の高齢者や合併症を持たれている方は、早期の前立腺癌が発見されても積極的な治療は不要の場合が多く、癌が見つかったときに受ける治療やその治療をする際に早期発見早期治療が有益かどうかまで考え、組織検査をするかどうか判断するべきです。積極的な治療の対象になる70歳以下の方は、
前立腺癌の可能性がある程度高ければ前立腺の組織検査を受けたほうがいいです。このあたりの判断は、非常に難しく前立腺癌を専門にしている泌尿器科医に相談されるといいでしょう。