前立腺がんとホルモン療法
前立腺は男性にしかない臓器であり、男性ホルモンがあってはじめて活動をする臓器です。前立腺がんの大部分は男性ホルモンが存在すると増殖し、男性ホルモンの除去によりがん細胞は死滅していきます。この特徴を利用した治療法をホルモン療法あるいは内分泌療法と言います。
I ホルモン療法の種類
男性ホルモンは睾丸で90%、副腎で10%作られています。
睾丸の男性ホルモンを下げてしまうには主に3つの方法があります。ひとつはLHRHアナログという薬で、睾丸から男性ホルモンを放出させるというシグナルを低下させる事により作用します。二つ目は男性ホルモンの源である睾丸を手術により摘除してしまう方法、三つ目は女性ホルモンを使う方法です。効果は全く同じですが、副作用と費用が異なります。最近はLHRHアナログが使用されることが多いです。
副腎で作られる男性ホルモンが前立腺がんに悪影響を与えることがあり、男性ホルモンががん細胞と接触するのを妨げる抗男性ホルモン剤を併用することもあります。ただし必ず必要というわけではありません。
Ⅱ ホルモン療法の副作用
薬自体の副作用は少ないですが、男性ホルモンの低下に伴う症状が出現します。
1 性機能低下
どのようなホルモン療法でも多かれ少なかれ性欲の低下と勃起能の低下を引き起こします。抗アンドロゲン剤単独療法では、男性ホルモンの低下がないため性機能は比較的維持されますが、がんには少し効果が弱いです。
2 ほてり
閉経後の女性に起こる現象として有名ですが、前立腺がんのホルモン療法でも高頻度で生じます。症状は顔面、首、胸などに突然に熱感を覚え、汗が吹き出たり、時には震えがきたりします。原因はよくわかっていませんが、ホルモンのアンバランスによる血管運動の機能障害と考えられています。女性ホルモンや抗アンドロゲン剤単独療法ではほてりが起こる事は少ないようです。
3 体重増加
男性ホルモンが低下すると筋肉が萎縮し、基礎代謝が低下します(体が省エネになる)。摂取カロリーが同じであれば、基礎代謝が低下した分体重は増加します。したがって治療を開始する際には、よく運動をし、摂取カロリーを少なくするようにする必要があります。
4 その他
長期間ホルモン療法を続けると骨粗鬆症や軽度の貧血を生じます。その他体重増加に伴い、コレステロールの上昇や糖尿病の悪化が起こることがあります。
Ⅲ ホルモン療法はどのような患者さんに適しているか?
転移を伴うような進行した前立腺がんの患者さんが第一選択となります。それ以外に放射線療法や手術療法の補助療法として使用されることもあります。放射線療法や手術療法を受けられない早期がんの患者さんに対しても使用されることがあります。